テック業界で世界的リーダーの一人が、地球上で最もプレイされているMOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナ)タイトルの白熱した試合に立ち会うというのは、そうそうあることではない。しかしAppleのCEO、ティム・クックは中国の成都にある同社直営店のひとつを訪れ、『Honor of Kings』のeスポーツ大会を観戦した。
この大会はToday at Appleセッションの催しとして行われたもので、『Honor of Kings』の開発元TiMi Studio Groupからもテクニカルチーム統括のLing Feiが出席し、iOSでのプレイ体験向上にむけた継続的な技術イノベーションを紹介した。
その最たるものが描画性能の強化で、Appleの最新技術をじかに導入し、HDR(ハイダイナミックレンジ)サポートとMetalFX Upscaling技術により、さらに鮮明な映像表現が可能になった。この技術はiPhoneの最新機種でなくとも恩恵を受けられるようになっているので、それ以外のユーザーも安心していただきたい。開発側ではあらゆるユーザーに可能なかぎり最高の体験を提供するべく、積極的な取り組みを進めている。
『Honor of Kings』の開発陣にとって、2015年のサービス開始以来の課題は、新鮮でエキサイティングなコンテンツの供給を保ちつつ、いかに大きな技術革新に対応し新機能を取り入れていくかということだった。事実彼らはそれを続けてきたし、『Honor of Kings』がMOBAの代表的タイトルとなった今もその姿勢は変わらない。
例えば、モバイルデバイスの演算性能やディスプレイは格段に進歩し、今では最新世代のゲーム機に迫る高精細なグラフィック表現が可能な水準になっている。しかしスマートフォンでそれをやろうとすると、どうしても消費電力が大きくなりデバイスの連続使用可能時間が短くなってしまう。
TiMiのHoK開発チームにとって、描画性能をフルに使って目を惹くグラフィックを作るのはたやすかったはずだ。それでも彼らは、ユーザーが使うデバイスを問わず快適にプレイできることを常に重視してきた。
「私たちはこれからも、ハードウェアの性能を活かして、グラフィック品質とバッテリー消費のバランスをとりつつ、映像表現の向上に全力で取り組んでいきます。ハイエンド機種の描画性能をできるだけ活用しつつ、より低いスペックでも動作するようにして、対応機種の幅を広げていく方針です。」とLing Feiは語った。
その取り組みの一環としてTiMiが独自に開発したレンダリングソリューションは、限られたパフォーマンス要求でライティング、シャドウ、ダイナミックグローバルイルミネーション、オクルージョンといった最低限の要素を押さえて高品質な映像を実現できる。ローエンド機からハイエンド機までシームレスに対応する柔軟性も備えている。つまり、どんなスマートフォンを使っているプレイヤーにも、その機種で可能なかぎりのゲーム映像体験を提供できるということだ。
このような方針を貫くにはときに多大な労力を必要とするが、『Honor of Kings』がそれを実現できているのは、アジャイルで柔軟性に富んだ開発陣に恵まれている点によるところが大きい。
「何か提案があがってくると、さまざまなチームの専門家が検討会を開いて、それはいま実現可能なものか、そうでなくとも実現の道を検討し計画を立てる必要があるものかどうかについて話し合います。中には現状では不可能なものもありますが、方向性が正しく価値があると判断すれば、将来的に実現できるような投資をします。」とLing Feiは説明した。
大幅な変更を加えたり、革新的なテクノロジーを導入したりする前には、デザイン部門、アート部門、プロダクト部門をはじめ諸方面から意見を聞いたうえで、ユーザーのニーズを最優先に判断する。ゴーサインが出れば、実装までに必要なのは時間だけだ。
もちろん、ゲームを成功させる要素はこれだけではない。『Honor of Kings』の場合、バックエンド技術の大きな進歩も人気に貢献している。特に「制作の効率化」と「ゲーム品質の向上」については、AIを使った制作支援テクノロジーやインフラストラクチャサポートに支えられているところが大きいとFeiは述べた。
この革新的プロセスでは、差分レンダリングを採用し、さらにAIも駆使することでゲームアセット制作における品質、パフォーマンス、生産性のバランスをとっている。その効果は明らかで、グローバル展開において要求される厳しいパフォーマンスおよび品質水準をすべて達成し、アセット制作コストを削減し、他の改良に注力できるだけの余裕を生み出した。
進化と成長を続けるモバイル市場で生き残るには、『Honor of Kings』も同じように進化し成長するしかない。そのためには新モードやコンテンツの追加であれ、システム面の強化であれ、必要なことをやっていかねばならない。それはFeiも重々承知している。それでも基本方針は変わらない。TiMiとしては「将来の新テクノロジーの登場やアイデアの探求」に備えつつも、本作の開発陣はこれからも「ユーザー体験に資する最適化を引き続き進めていく方針で、この点に議論の余地はありません」とのことだ。