2015年に忽然とサバイバルホラージャンルに登場したTechlandの『Dying Light』は、パルクールによるシームレスな移動と昼夜サイクルという斬新な概念によってジャンルに新風を吹き込んだ。
その後2022年に『Dying Light 2 Stay Human』がリリースされた。『Dying Light』から15年後の世界を舞台に、より洗練されたゲームプレイメカニクスを柱として、さらに広大なオープンワールドと深遠で複雑なナラティブを展開した。
さらに2024年2月には、ローンチ後2年間に出たアップデート10本以上の改良点を統合し初のストーリーDLC『Bloody Ties』を同梱したReloaded Editionもリリースされている。
Techlandで本作のリードコンセプトアーティストを務めるKatarzyna Zielińskaに、アクションゲームへいかに現実味を持たせるかをめぐる開発の舞台裏を伺った。
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Level Infinite: ハランは架空のゲーム世界ながら、詳細で奥深い設定を持っています。どのようにしてここまで作り込まれたのですか?
Zielińska: 一番大事なのは基礎を正しく作ることです。私のようなコンセプトアーティストにとっては、アートやクリエイティブの方向性をゲームのヴィジョンにぴったりと沿わせることです。そこから私の仕事は始まります。これをプリプロダクション段階でやっておくことが肝心なんです。準備には何年もかかりますからね!
基礎がしっかりしていれば、プロダクション段階に入ってゲームのアートを作るとき、きちんと一貫性のあるものが作れます。
「プリプロダクションをおろそかにすると、いざプロダクション段階に入ってから決まっていない所や噛みあわない所が出てきて苦労することになります。」
プリプロダクションはゲームのビジュアルだけでなく、ゲームプレイその他あらゆる部分を定義する大切な段階です。プリプロダクションをおろそかにすると、いざプロダクション段階に入ってから決まっていない所や噛みあわない所が出てきて苦労することになります。
アートだけ、ゲームプレイだけ、ストーリーだけの問題ではありません。すべてが噛みあってこそ優れたゲームを作れるのです。
デザイン面でこれまでに一番難しかったことは何ですか?
パルクールでの移動が完全に機能する環境をデザインするというのはこれまでで一番難しいことだったと心から思います。これを実現できる人はまさにウィザード級のゲーム開発者と言ってもいい。そのゲームが現実世界をベースにしているならなおさら難題です。
まず何より、ゲームはプレイして楽しくなければいけません。だからといって、現実をまったく無視したものを作るわけにもいきません。楽しさと現実味が釣り合う、見映えがして操作も楽しい程合いを見つける必要があります。
「楽しさと現実味が釣り合う程合いを見つける必要があります。」
アート担当とゲームプレイ担当が密に連携をとるのはもちろんですが、プレイヤーからも特定の要素についての感想を集めています。要は、常にちょうどよいバランスを見つけることなんです。
これだけ大規模なゲームとなると、バランスをとるべき変動要素も多いのではないでしょうか。どのようにして方向性を統一しているのですか?
一番大事なのはコミュニケーションです。私はアーティストですが、ビジュアル制作にあたっては文書も大切な参考資料になります。ビジョンを理解するうえで必要な背景情報を得るためです。チーム内で情報共有することも役に立つので、それぞれが今どんな作業に取り組んでいるかを毎日知らせ合っています。
とかく細部に集中していると全体像を忘れがちなので、これは本当に有意義なことです。チームの誰かに自分の仕事を見てもらって、それについて話し合い、より大きな視野から自分の仕事を捉え直すことで、ビジョンからの逸脱を防げます。
また、リーダー層へのフィードバックの方法も確立されているので、これも一貫性の維持に大いに役立っています。
続編が出るとなるとプレイヤーの期待は膨らむものですが、期待値コントロールにはどのような対策をとられましたか?
プレイヤーはどのような内容が期待できるかを前作から知っています。ですから、最低でもそれに匹敵するものを出さねばなりません。
デザインに関する意思決定も、それを意識して行う必要があります。単純に「なるほど、それは面白そうだ、そうしよう」と言うわけにはいきません。意義があり、達成可能であることが必要です――この規模のゲームとなると、何かをする、何かを変えると決めたらそれなりの覚悟と勇気で取り組まねばなりません。
あなたが仕事に情熱を持って取り組んでおられるのがよくわかりました。Techlandにはどのような経緯で就職なさったんですか?
Techlandに入社する前は、インディーゲームに10年近く携わっていました。当時は仕事の質について求められるものも今とはずいぶん違いました。私が携わっていたインディーゲームというのは、ごく少人数が、わずかな予算で、ガレージでこつこつ作っているようなものでした。
「このゲームの仕事がしたい。とにかく…どうしても。」
E3で『Dying Light』の発表トレーラーを見て、私はすっかり夢中になってしまいました。「このゲームの仕事がしたい。とにかく…どうしても。」と思ったんです。
それでアパートの自室に1か月引きこもって、『Dying Light』のデザイン画に見えるようなポートフォリオを特別に作りました。完成すると、それをソーシャルメディアに投稿しました。その作品の評判をTechlandが聞きつけて、入社しないかと誘ってくれたんです。ほんとうに途方もない、最高に幸運な出来事でした。そういうわけで私は予算も規模もずっと大がかりなゲームに携わることになったのです。
(編集者補足: 彼女が投稿した作品は、2019年にTechlandがFacebookで紹介した投稿で見ることができる。)
なにか余暇になさっている活動はありますか?
『Magic: The Gathering』のイラストをよく描いています。昔からずっと『Wizards of the Coast』の仕事がしたいと思っていたんですが、かれこれ19年経ってようやくその機会をつかむことができました。兄が昔よく『Dungeons & Dragons』をプレイしていて、私はその本の挿絵が好きで勝手に持ち出しては眺めていたのです。
イラストの仕事はとても楽しいです。追求していける奥深さがあります。カードのメカニクスを一枚の絵に反映するというだけではないし、AAAゲームの仕事ともまったく違います!
『Dying Light 2 Stay Human – Reloaded Edition』は、ローンチ後2年間でリリースされた10本以上のアップデートによる改良を統合し、初のストーリーDLC『Bloody Ties』が付属する。現在Steam、The Epic Store、PlayStation、Xboxで発売中。詳しくは公式サイトを参照されたい。